グレーから始まる色の旅

朝の通りを歩くと、どこを見てもグレーが静かに支配していた。

カフェの壁は落ち着いたスモークグレー、マンションの外壁は無機質なライトグレー。
ショーウィンドウに並ぶコートやバッグも、淡く上品なグレーに包まれている。

それは洗練と安心を象徴する色で、何年も私たちの日常を穏やかに彩ってきた。

けれど、その日、ふと立ち止まって気づく。

――心が、もう少し温もりを求めている。

寒い朝に両手で包むマグカップのココアのような、やわらかなベージュ。

春先の陽だまりを閉じ込めたような、やさしい黄みがかったオレンジ。

雨上がりに顔を出す新芽を思わせる、清らかなセージグリーン。

それらの色が、気づかぬうちに街のあちこちに忍び込んでいた。

カフェのテラスに並んだクッション、花屋の店先に置かれた陶器の花瓶、
通り過ぎる人のジャケットの袖口にふと覗く差し色。

最初は小さな変化だった。
けれど、その優しい色たちは、確かにグレーの隣に座り始めていた。

グレーの時代が終わるわけじゃない。

それは変わらず、落ち着きと調和の土台としてそこにあり続ける。
ただ、その隣に寄り添うように、暖かみのある色が静かに息づきはじめたのだ。

人々はやがて、その変化に気づく。

――あ、なんだか気持ちがほぐれるな。
――この空間、ちょっと居心地がいいな。

それは、色が移り変わる季節を、私たちが生きている証だった。
そして、この先の景色はきっと、まだ見ぬ色で満ちていく。